角川書店 短歌 これまで雑誌に発表してきた発表作品・鑑賞文を紹介します 現代短歌 歌人 北久保まりこ

北久保まりこ プロフィール

北久保まりこ

東京都生まれ
東京都三鷹市在住
日本文藝家協会会員
日本PENクラブ会員
現代歌人協会会員
日本歌人クラブ会員
心の花会員
Tanka Online Project
Tanka Society of America

北久保まりこ

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歌人  北久保まりこ
短歌  角川書店

短歌  角川書店
これまで発表してきた、短歌・鑑賞文などを発表します。

鳥の眼の高さ愉しもとこまでもゆるされし天おほらかなりき
まなしたの緑さわぎて鳥たちぬ生命の水を光らせながら
樹皮に耳をあてて聴きしはとほき日の記憶か母のせせらぎに似て
母の老いて追憶の霧に憩ふことおほくなりたりあをき火のもゆ
ゆれる海ゆれる思ひに立ちつくす引き返せない いのちまるごと
夕刻はその道に誰かゐる気配 二月の雨のなまあたたかし
をさな子の声を聞きしか空耳は木漏れ陽をすこし悲しくさせる
さんざめくこずゑの水よ影までも光ふふめる命いとほし

 

歌集『谷汲』より

生きてあらば二十七歳その母に言はんとぞして口を噤みぬ
(夏・哀傷 澄高禅童子二十年忌より)

長男・高志の二十年忌に詠まれた歌である。幼いわが子に先立たれた心情は、察するに余りある。時を経ても 癒されぬ喪失感が、作品から滲んで止まない。

親族や近しい人たちを、相次いで亡くした修にとって、高志の誕生は、闇に差す光そのものであっただろう。しかしその新しい命までも、たった数年で奪われるという悲運に、見舞われてしまったのである。

毎年命日が巡る度に、修と「その母」は、あの夏の日へと引き戻される。二人は、現実の日々を生きながら、もう一つの、二十年前に止まってしまった時間を、抱えているのである。そして、「生きてあらば」と、その歳の頃を思い、青年になっているはずの子の姿を、霞のようにみるのであった。死者と生者の間に横たわる、混沌とした時を通して、無限の奥行を感じさせる作品である。

修は、「その母」に言いかけたうわ言のようなことばに「口を噤み」、止まった時の振り子の前に蹲っている。そしていつしか、一読者である私も、その動かぬ時を共有していることに、気付かされたのであった。