記事詳細 国内、国外で短歌の表現活動を続けています。現代短歌 歌人 北久保まりこ

北久保まりこ プロフィール

北久保まりこ

東京都生まれ
東京都三鷹市在住
日本文藝家協会会員
日本PENクラブ会員
現代歌人協会会員
日本歌人クラブ会員
心の花会員
Tanka Online Project
Tanka Society of America

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新作英文短歌

北久保まりこ

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歌人  北久保まりこ
記事詳細

『心の花』2020年02月号に掲載されました

心の花 2月号 「佐佐木幸綱の一首」をご掲載頂き、また思いがけず「今月の15首」にもお選び下さいまして 大変光栄に存じます。
ありがとうございました。

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心の花「佐佐木幸綱の一首」2020二月号

歌集『旅人』より

未(いま)だ地の動かざる世に研(みが)かれしまろみやさしき凸レンズかな

 一人旅が好きで、旅の歌も大好きである。赴いたことがある地ならば、思い出を辿りながら鑑賞でき、まだ見ぬ地ならば、想像のキャンバスに向かう無限の愉しみがある。かつて、「行ったことのある人にしか理解できないから旅の歌は駄目だ」という意見を聞いたことがあるが、決してそんなことは無い。
 馴染みのカフェで歌集『旅人』を開くと、心は東京・武蔵野から、見知らぬ国オランダのライン川沿いの都市へと飛んだ。
 掲出歌は、先生が早稲田大学在外研究員として、ライデン大学に在籍中の、一九九二年から九三年の間に詠まれた一首。ライデン科学博物館所蔵の凸レンズの歌である。
 時は天動説の時代「未だ地の動かざる世」まで遡る。詠いだしから一気に攫われてしまった。うっすらと鳥肌立つような感覚とともに脳裏を過るのは、彫刻のアリストテレス、横目のコペルニクス、気難し気なガリレオの顎鬚。それに、なぜか顔が描かれた地球を、ど真ん中に配した天文図の記憶までが蘇る。注文したカフェラテが来るころには、六百年以上もの過去へ旅立ったまま、暫く彷徨っていたい気分になっていた。
 異国で出会った上質なワインを楽しむように、旧い歴史の中に紛れ込んだ錯覚に酔う。臆することなく「凸レンズ」を覗くと、みえてきたのは当時の学者や職工の並々ならぬ努力と苦労。完成した暁には、拡大して映しだされた像を目の当たりにし、手を取り合って歓喜する人々。新しい発明や発見に心躍るのは、いつの世も同じである。
 「まろみやさしき」の形容が、精密な研磨機材が無かったころの、人の手の温もりを思わせ、柔らかく胸に落ち着く。
 掲出歌の二首あとに歌集に収められている歌を、ここで引いておきたい。
・見えざる星あるを信じし眼を思うはつなつのこのライデンの空
 時代がすすみ、やがて地動説が唱えられる。そして、こうした「レンズ」の組み合わせから、ヒトは天体観測が出来るようになり、己の小さな存在を認識するに至る。
 現代までに一体どれほどのウロコが、人類の目から剥がれ落ちたことだろう。
 私は今銀河の隅で、遥かな昔から丹念に積み重ねられてきた時間の延長線上にいる。宇宙からみれば、ほんの一瞬でしかないその歩みの中の、数多な災いを含む出来事には、未来へ繋がる大切な意味があったと思いたい。
 陽だまりのテラスで、お気に入りのリーディンググラスを置くと、顔見知りの店員がコーヒーのお代わりを持ってきた。家族連れで賑わう、師走初めの午後であった。

北久保まりこ

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