記事詳細 国内、国外で短歌の表現活動を続けています。現代短歌 歌人 北久保まりこ

北久保まりこ プロフィール

北久保まりこ

東京都生まれ
東京都三鷹市在住
日本文藝家協会会員
日本PENクラブ会員
現代歌人協会会員
日本歌人クラブ会員
心の花会員
Tan-Ku共同創始者 Tanka Society of America

和英短歌朗読15周年記念動画
新作英文短歌
Spoken World Live発表作品

北久保まりこ

当サイトはリンクフリーです。
左のバナーをご利用下さい。

歌人  北久保まりこ
記事詳細

ミニエッセイ(心の花2013,11) 父に伝えたかったこと

父の記憶は私が八歳の春までで途切れる。

誰が悪いわけでもなく、物語が唐突に終わってしまうこともあるのだ。

お父様が居なくなっても大丈夫?うん、大丈夫よ・・・それが父との最後の会話ー。翌日、父の姿は本当に家から消えていた。まさか という驚きと後悔の念が押し寄せ、胸のなかで高波になった。今も小三の私は、あの縁側に立ったままだと感じるのは、紫陽花の咲く 父の日の頃。

後に孫の顔を見せたくて、母と共に父を探した。十五年前に亡くなっていたと知ったのは、随分と経ってからだ。

時間は止まったまま巻き戻せもしない。「ごめんなさい。あの時の応え、本当は嘘」実際に会うことができたら、そんな風に素直に話せ るかしら、などと仕様のないことを思ってしまうのは、決まってこんな猛暑の命日あたりだ。

この頃、ひょろりと背の高い息子の仕草が、父のそれに似て見える。
天国の父は私を許してくれたのだろうか。

水溜まりから雲がでてゆくやうにしてあの朝父はゐなくなりたり